ホンダ、スズキ、カワイ、ローランド
浜松は、世界でもまれに見る工業集積地帯です。ヤマハに加えて、ホンダ、スズキ、カワイ、ローランド、浜松ホトニクスなどがあります。これほど企業が集中している地域は、おそらく世界にないでしょう。新しい企業が続々生まれていますし、各分野で世界一の企業が40、50社はあります。
豊田佐吉の自動織機
浜松では昔からベンチャービジネスの精神が盛んでした。浜松では昔から綿織物の生産が行われ、豊田佐吉らが自動織機を作り、明治の中ごろには軽工業の町から重工業の町になっていきました。
また、明治の終わりには、山葉寅楠がオルガンを作ります。浜松は織機やオルガンの産地となり、それに関連した企業が多く集まる。そういう素晴らしい工業地帯となっていたからこそ、ここに浜松高等工業学校ができ、当時の鉄道省の浜松工場の誘致に成功したのです。
ヤマハは音楽コンクールと版権で躍進
浜松では、競争が非常に激烈です。例えば、ヤマハ、カワイ、ローランドがお互いに競い合った結果、ピアノのエレクトロニクス化が進み、ついにはキーボードができました。製品が小型化したことで、中国での組立が可能となり、値段がどんどん下がります。
当然のことながら、モノは増えるけれども、売り上げが落ちますから、他の分野に進出していかなければなりません。
ヤマハは音楽コンクールを開き、サザンオールスターズや中島みゆきらを発掘し、その版権を取る。そんな経営戦略を立体的に組み上げていきました。
プロペラ工場でオートバイ、モーターボート
また、ヤマハは第二次大戦中に航空機のプロペラを作っていた工場でオートバイを作りました。その技術でモーターボートを作る。そして、そこで使われるグラスファイバーを使ってヨットやスキー、アーチェリーを作っていったのです。
何しろ、目の前に競争相手がいるので、ここに高い技能の集積が出来上がってくるのです。
設計を習って、32、33歳で独立
浜松で起業するコースは、浜松高等工業を卒業してホンダなどの最新鋭の工場に勤める。10代で最新鋭の技術を学び、次に中小企業でぼろぼろの旋盤をだましだまし使い、それから設計を習って、32、33歳で独立するというものでした。
独立資金は、既に成功した人が提供し、販路や技術者を紹介する、ということで、アメリカのベンチャーキャピタルと同じような働きをした人がいたのです。
また、全国の中で、信用金庫が一番多かったのが浜松市です。金融機能と技能が結びついて新しいものができたのです。
浜松ホトニクスの技術とノーベル賞
浜松のもう一つの良さは、工業と大学と産業が密なところです。浜松ホトニクスと静岡大学工学部は、過去一体の関係でした。特に、小柴昌俊教授のノーベル賞の受賞には、浜松ホトニクスの技術が大きく貢献しています。
開発者にとって学問は邪魔
浜松ホトニクスの晝馬(ひるま)明会長は「開発者にとって邪魔なのは学問だ」といいます。学問のある人は、無理難題に対して論理的にできない、と結論付けます。
一方、学問がない人はとにかく繰り返し実験して、偶然に新しい現象を発見し成功してしまう。こういうところに開発があるというのです。
日本メーカーが中国、韓国に勝つために
日本経済は低迷しています。中国や韓国など、賃金が低く、しかもすり合わせ技術を持った国が現れてきました。その上、理論的な技術はあちらの方が優れている。ですから、日本から生産が海外に移ってきています。
それでも、構造化知識研究と技術のすり合わせの過程からしみ出してくるニーズをうまくくみ上げて一体化していければ、日本メーカーは強みを発揮できるはずです。
ローランドの3次元CADを使ったセル生産方式
ローランドディー・ジーは2002年、製造される全機種において3次元CADを使ったセル生産方式「デジタル屋台」に移行しました。
3Dマニュアルで組み立て作業
作業者は画面に表示される3Dマニュアルに基づいて、組立作業を行うことになりました。
ミス防止に効果
部品調達はランプで指示が出されます。その行程をセンサーでチェックします。結果として、工場全体をデジタル管理することができ、ミス防止にも高い効果が出ました。
設計ではソリッドワークスを導入
設計ではソリッドワークス(SolidWorks)を採用しました。操作が容易で、コストパフォーマンスが高く、グループ会社での導入例もあったためです。
当時はこの構想に対する不満もあったものの、社内ワーキンググループによって簡易マニュアルの制作などを行い、比較的スムーズに移行が進んだといいます。
設計者がCAEでチェック
3D-CADの導入により、設計者がCAE(コンピューターによる科学技術計算)によるチェックを容易に行えるようになりました。改良がスムーズにできるようになりました。
後行程で発生する問題を早期解決
また、製造部門と協働することで、後行程で発生する問題を早期に解決でき、確実に設計期間を短縮できたそうです。
強力なトップダウンと社内全員の粘り強さに
様々な予想外のメリットが生まれました。短期的な費用対効果だけを考えていたら、実現しなかったでしょう。強力なトップダウンと社内全員の粘り強さによる成功だといえます。デジタルデータは、製造現場勝ち残りのための必須ツールだということです。